人手不足を埋めるだけではない。1年で3店舗を変えた薬局のフリーランス活用論

日本機材販売株式会社 取締役 岡村浩輝 様
INTERVIEW
——1年で3店舗を改装した「ぞうさん薬局」岡村さんに聞く、痛みを選ぶ改革論
「正直に言うと、最初はあまり期待していなかったんです。外部人材の活用で、うまくいかなかった経験もありましたから」
そう話すのは、神奈川県相模原市を中心に「ぞうさん薬局」5店舗を展開する、日本機材販売株式会社の岡村さんです。
ところが、最初に受け入れたフリーランス薬剤師は、目の前の業務をこなすだけではありませんでした。店舗の課題を自ら見つけ、改善策を提案し、現場が回る仕組みまでつくっていったのです。
その後、ぞうさん薬局では、管理者が不在になった店舗の支援、業務改善の推進役など、さまざまな場面でフリーランス薬剤師を活用するようになりました。
取材の最後、岡村さんはこう語りました。
「フリーランスの方がいなかったら、この改革は進んでいなかった。そう思うと、ゾッとするよ」
最初は疑っていた経営者が、なぜここまで考えを変えたのか。
1年で3店舗を改装し、AI薬歴や音声入力を導入した「変わり続ける薬局」の舞台裏と、そこでフリーランス薬剤師が果たした役割を聞きました。

1)ぞうさん薬局とは
建材卸から生まれた、相模原の”変わり続ける薬局”
ぞうさん薬局のルーツは、薬局ではありません。運営母体である日本機材販売株式会社は、昭和59年に設立された建築資材の卸会社です。約30年前、医薬分業が進む中で「薬局をやってみないか」と声をかけられ、まったくの異業種から調剤薬局事業へ参入しました。現在は調剤薬局事業が会社の柱となり、相模原市を中心に5店舗を運営しています。
Q.岡村さんは、どのような経緯で入社したのですか?
岡村さん:新卒で入社しました。社長が大学の同級生で、共通の友人を通じて「うちで働かない?」と誘われたことがきっかけです。ただ、入社してからは苦労の連続でした。30歳でマネージャーになったのですが、部下は全員年上でした。「どうせ社長の友達だから」という目で見られて、何かを提案しても「それはうちには無理だよ」と返される。そんな状態が、10年ほど続きました。
Q.そこから、なぜ現在の改革が始まったのでしょうか?
岡村さん:3年ほど前(2023年頃)に、それまで自分が担っていた管理薬剤師の仕事を後任に引き継ぎ、現場を少し離れたんです。そこで初めて余力が生まれて、「自分たちは、どのような薬局をつくりたいのか」を考えられるようになりました。そこから、現在の改装や業務改善につながっています。
目指しているのは、シンプルです。「地域のため、患者さんのための薬局にしよう」ということです。

2)薬剤師を「対人業務」に集中してもらうための改革
薬剤師は、薬を触らない。タイピングしない。お金を触らない
Q.ぞうさん薬局では、具体的にどのような改革を進めているのですか?
岡村さん:方針はシンプルです。薬剤師は今後、薬を触らない、タイピングしない、お金を触らない。ピッキングや監査は機械と事務スタッフが担い、会計は自動精算機を活用する。薬剤師は患者さんとの対話や服薬支援といった対人業務に集中する、という考えです。
その象徴がAI薬歴と音声入力です。AI薬歴の活用により、これまで薬剤師が多くの時間を費やしていた薬歴入力の負担を軽減し、患者さんとの対話や服薬支援といった本来注力すべき対人業務に集中できる環境をつくることを目指しています。
患者さんとの会話を音声で記録し、過去の処方歴などと組み合わせてAIが薬歴の下書きを作成することで、薬剤師は内容を確認・修正するだけで薬歴を完成させることができます。
これにより、会話中のメモやパソコン入力を減らして患者さんとしっかり向き合えるだけでなく、薬歴の滞留や業務後の残業といった負担の軽減にもつながりました。
AI薬歴を単なる入力業務の効率化ではなく、薬剤師を事務作業から解放し、対人業務の質を高めるための仕組みとして活用していきます。
取材中、実際に投薬の場面を見せてもらいました。患者さんとの会話が終わって数秒後には、薬歴が完成。「え、もう薬歴も終わりですか?」と思わず声が出ました。私も薬剤師として現場に立ってきましたが、見たことのないスピードでした。
ただ、その速さを支えているのはAI薬歴だけではありません。ぞうさん薬局では、患者さんがスマートフォンから回答できる独自の初回アンケートや、PCで必要な画面を最短で開けるショートカットキーの設定など、日々の入力やPC操作を少しでも減らすための工夫が随所に取り入れられています。
一つの大きなシステムを導入して終わりではなく、小さな「手間」を一つずつ取り除いていく。その積み重ねが、目の前で見た圧倒的な業務スピードにつながっているのだと感じました。

プライバシーに配慮しつつ音声入力に最適化された投薬ブース
岡村さんによると、本店では以前、1日に200枚を超える処方箋を応需し、混雑時には30人以上が待つこともあったそうです。現在は業務の流れが改善され、患者さんの待ち時間も大幅に短縮しました。その結果、以前は待ち時間を理由に他の薬局を利用していた患者さんの来局にもつながり、店舗の売上も伸びているといいます。
Q.店舗改装やシステム導入には、大きな投資が必要だったと思います。迷いはありませんでしたか?
岡村さん:もちろん、1店舗あたり相応の金額を投資しています。ただ、これからの業界の流れを考えたときに、「今、動かなければいけない」という危機感がありました。
私は、「とりあえず様子を見よう」が一番危ないと思っています。まずはやってみる。うまくいかなければ戻せばいい。試してみなければ、良いか悪いかすら分かりませんから。今回の投資については、社員の頑張りもあり、十分に回収できる見通しが立っています。これからが楽しみですね。
また、「まず試してみる」という姿勢は店舗のさまざまな施策に表れています。LINEで処方箋を送信すると、準備完了時に通知が届き、患者さんが好きな時間に薬を受け取れる仕組み。投薬口の一つを「LINE優先受け取り」にして、待合室にいる患者さんが自然とサービスに気づく導線。
子どもの多い店舗では、LINE登録のきっかけとしてガチャガチャを設置するなど、店舗ごとの患者層に合わせた工夫も行っています。大きな投資だけではありません。小さく試し、反応が良ければ広げる。合わなければ戻す。その繰り返しが、ぞうさん薬局の変化のスピードを生んでいます。



各店舗の内装
3)改革の裏側で起きた、避けられない痛み
「退職者が出るたびに迷いました。それでも、この方向は間違っていないと信じています」
ここまでの話だけを聞くと、ぞうさん薬局の改革は順調に進んできたように見えるかもしれません。しかし岡村さんは、変化を進める中で生まれた葛藤についても率直に語ってくれました。
そもそも岡村さんが改革を進める目的は、単に業務を効率化することではありません。
患者さんにとっては、薬を受け取るまでの時間をできる限り短くしながら、相談したいことにはしっかり時間をかけられる薬局にすること。プライバシーに配慮した環境を整え、必要な情報は医療機関とも速やかに共有し、薬局として患者さんの健康と治療を継続的に支えていくことを大切にしています。
一方、働く職員にとっては、清潔で働きやすい環境を整えるとともに、最新の機器やデジタルツールを活用することで日々の負担や残業を減らす。薬剤師や事務職員の業務を効率化することで、職員が無理なく長く働くことができる、ワークライフバランスの取れた職場づくりにも力を入れていいます。
目指しているのは、患者さんには「待たせないけれど、相談にはしっかり時間をかけられる薬局」、職員には「効率的に働きながら、患者さんと向き合える薬局」です。
だからこそ、その改革の途中で職員が離れていったことは、岡村さんにとって決して割り切れる出来事ではありませんでした。
Q.改革を進める中で、退職を選ぶ方もいたと伺いました。それでも、変えることをやめようとは思わなかったのでしょうか?
岡村さん:業務改善を進める中で、新しいやり方に戸惑う人や、方針が合わないと感じる人もいました。結果として、退職を選んだ人もいます。
もともと患者さんのためだけでなく、働いてくれるスタッフの環境も良くしたいと思って始めた改革です。だからこそ、実際に退職者が出ると、「本当にこれで良かったのだろうか」と迷うこともありました。
それでも、私は方針を変えないと決めています。私が方向をずらし始めたら、組織全体がどこを目指しているのか分からなくなってしまう。
今進めている改革は、最終的には患者さんにとっても、そこで働く職員にとっても、今より良い環境につながると信じています。
変化は、すべての人にとって心地よいものとは限りません。
特に印象的だったのは、岡村さんが「効率化」そのものを目的にしていなかったことです。患者さんの待ち時間を減らしたい。患者さんと向き合う時間を増やしたい。そして、職員が無理なく長く働ける環境をつくりたい。
そのための改革であるにもかかわらず、途中で人が離れてしまう。その矛盾に迷いながらも、目指す薬局の姿からは逃げない。
改革には、新しい機器を導入すること以上に難しい「人の変化」があります。その葛藤まで隠さず語る岡村さんの言葉には、経営者として改革を進める覚悟と、働く人への思いの両方が表れているように感じました。
「うちも変わらなければいけない。でも、変えるのが怖い」
そう感じている薬局経営者にこそ、届いてほしい言葉です。

4)フリーランス薬剤師への「先入観」が変わった瞬間
穴埋め要員だと思っていた。でも、実際は店舗を変えてくれる存在でした
Q.改革を進める中で、フリーランス薬剤師を活用し始めたきっかけを教えてください。
岡村さん:人材関係のコンサルタントの方から紹介されたことがきっかけです。ただ、正直に言うと、最初は抵抗がありました。過去に外部人材を受け入れた際、こちらが期待していた働き方と合わず、うまくいかなかった経験があったんです。フリーランス薬剤師に対しても、当初は「収入を優先して、短期間だけ働く人なのではないか」というイメージを持っていました。
Q.その印象が変わったのは、なぜですか?
岡村さん:最初に来てもらった方が、とにかく仕事が早かったんです。現場のスタッフからも、すごく評判が良かった。そして何より、指示された業務をするだけではなく、自分で店舗の課題を見つけてくれました。「この店舗は、ここを変えた方がいい」、「この業務は、こういう流れにした方が回りやすい」そうやって、自分から意見を出してくれたんです。
目の前の業務を回すだけで精いっぱいだった店舗で、業務改善まで進めてくれました。「これは、自分が持っていたイメージと全然違うぞ」と思いましたね。
Q.フリーランス薬剤師には、どのような特徴があると感じていますか?
岡村さん:フリーランスの方は、一つひとつの現場での評価が、次の仕事につながります。だからこそ、指示されたことだけではなく、「この店舗に何が必要なのか」まで考えて仕事をしている人が多いと感じます。
うちに来てくれた人の中には、「3人分くらい働いてくれた」と感じる人もいました(笑)。もちろん、単純に作業量が3倍という意味ではありません。通常の薬剤師業務をしながら、課題を発見し、改善案を出し、現場の仕組みまで整えてくれたということです。
ぞうさん薬局では、フリーランス薬剤師を単なる「シフトの穴を埋める人」として活用しているわけではありません。例えば、新店舗の立ち上げ時には、現場に入って業務の流れやルールをつくってもらいます。店舗が軌道に乗った後は、その仕組みを社員へ引き継ぎます。管理薬剤師が急に不在となった店舗では、現場を安定させる支援を依頼しました。改装や新しいシステムの導入によって、一時的に現場の負荷が高まる時期にも、フリーランス薬剤師が力を発揮しました。
社員とフリーランスのどちらが優れているか、という話ではありません。長期的に店舗を支える社員と、特定の課題や変化の時期に力を発揮するフリーランス。それぞれの強みを組み合わせることで、改革のスピードを落とさずに進めているのです。

岡村さんご自身も現場に立ち、スタッフと共に改革を進めている
5)フリーランスから、改革を担うマネージャーへ
LINE問診を自作した薬剤師・島田さん。結果を出した人には、年齢や社歴に関係なく機会を渡す
Q.現在、ぞうさん薬局の改革を支えている島田さんも、もともとはフリーランス薬剤師ですね。
岡村さん:そうなんです。島田さんは最初、フリーランス薬剤師としてうちに来てくれました。ITにとても強く、LINEを使った初回問診の仕組みを、自分でつくってしまったんです。患者さんがQRコードを読み込み、スマートフォンでアンケートに回答する。薬剤師は、その内容を確認しながら、必要な情報をワンクリックで薬歴に転記できます。以前は紙に記入してもらい、その内容を薬剤師があらためて入力していました。その手間が減ったことで、患者さんと薬剤師、双方の負担が軽くなりました。
島田さんが現場に入って業務改善を進めた店舗では、来局する患者さんの増加にもつながっています。現在は正社員として入社してもらい、薬剤師部門のアシスタントマネージャーを任せています。


line優先の受け取りブース
Q.フリーランスだった方をマネージャーとして採用するのは珍しい形ですね。
岡村さん:僕自身、30歳の頃にやりたいことがあっても、なかなか任せてもらえませんでした。だからこそ、自分が30歳のときにやりたかったことを、彼に任せられているのが嬉しいんです。年齢や社歴ではなく、結果を出した人に、きちんと役割と機会を渡す。それが、うちの評価制度です。
岡村さんが若い頃に感じていた「任せてもらえない悔しさ」は、現在、若い人材へ機会を渡す姿勢につながっています。島田さんがフリーランスという働き方を経て、なぜぞうさん薬局への入社を選んだのか。その経緯については、島田さん本人へのインタビューで詳しくお届けします。

6)目指す薬局の姿
「うちは結果が出ていますから」——ノウハウを外へ、新しい仲間を中へ
Q.最後に、今後の展望を聞かせてください。
岡村さん:まずは、全店舗で在宅医療に本気で取り組むことです。そして、この1年の業務改善で苦労しながら培ってきたノウハウを、同じように悩んでいる薬局へ提供していきたいと考えています。
薬局を改装して、外見を変えるだけなら、業者さんと図面を引けばできます。本当に大変なのは、その後です。現場の意識を変え、業務の流れを変え、新しい方法を定着させる。そこまで支援できる人材が、うちにはいます。うちは、実際に結果が出ていますから。
実際、ぞうさん薬局には全国の薬局から見学が絶えません。多いときには一度に10社が訪れたこともあるそうです。
岡村さん:店舗見学は、いつでも歓迎しています。それから、この変化のスピードを面白いと思ってくれる薬剤師にも、どんどん来てほしいですね。うちは、これからも変わり続けますから。

6)取材後記
フリーランス薬剤師は、変化を支える選択肢になる
取材後、岡村さんがふと漏らした言葉が忘れられません。
「フリーランスの方がいなかったら、この改革は進んでいなかった。そう思うと、ゾッとするよ」
フリーランス薬剤師を最初は疑っていた岡村さんは、現在、その力を改革に欠かせない選択肢として活用しています。
フリーランス薬剤師は、単にシフトの空きを埋める存在ではありません。新店舗の立ち上げ、管理者不在時の支援、業務改善、新しい仕組みの導入。薬局が大きく変わろうとする場面で、外部の経験や視点が力になることがあります。
もちろん、フリーランス薬剤師は万能ではありません。誰を迎え、何を任せるのかが曖昧なままでは、期待した成果は得られないでしょう。だからこそ、稼働前に人柄やスキルを確認し、店舗が抱えている課題と、任せたい役割を明確にすることが重要です。
ぞうさん薬局の事例が示しているのは、「社員か、外部人材か」という二者択一ではありません。長期的に店舗を支える社員と、変化の時期に専門性を発揮するフリーランス。双方の強みを適材適所で組み合わせることで、薬局改革のスピードを落とさずに前へ進める。
それが、これからの薬局経営における、新しい人材活用の形なのかもしれません。
ぞうさん薬局(日本機材販売株式会社)
神奈川県相模原市を中心に5店舗を運営。店舗見学や採用に関するお問い合わせは、以下公式サイトより受け付けています。
■ぞうさん薬局公式サイト
ぞうさん薬局で働く薬剤師・島田さんのインタビューも公開しています。フリーランスとして現場に入り、社員になるまでの経緯を本人が語っています。
フリーランス薬剤師の活用を検討している薬局さまへ
スキマ薬剤師は、フリーランス薬剤師と薬局をつなぐマッチングサービスです。派遣と異なり、稼働前には候補者との事前面談を実施します。人柄やスキル、相性をご確認いただき、薬局と薬剤師の双方が合意したうえで契約へ進みます。「自社では、どのような活用ができるのか」、「欠員補充以外に、どのような仕事を任せられるのか」といった検討段階から、お気軽にお問い合わせください。
