最初は「変えない」。外から来たフリーランス薬剤師が、薬局に新しい視点を持ち込むまで

薬剤師:島田英将 様
INTERVIEW
白衣一枚で現場に入り、まず支える。課題が見えたら、自分が最初に動く。薬剤師・島田さんの仕事論
新しい薬局で働くことが決まると、島田さんは、まずその会社が運営する店舗の施設基準を調べます。どの加算を取得しているのか。どこに伸びしろがあるのか。経営者から「うちの薬局をどう思う?」と聞かれたとき、感覚ではなく、数字を交えて話せる状態で現場に入るためです。
しかし、初日から改革案を並べることはありません。
「最初は、フォロワーシップ100で入ります」
まずは現場のやり方を理解し、目の前の業務を支える。そのうえで、経営者やスタッフが困っていることを見つけ、自分が最初に動きます。
神奈川県相模原市を中心に5店舗を展開する「ぞうさん薬局」では、「新患アンケートの記入待ち」という課題に気づき、LINEを活用した初回問診の仕組みを自ら構築。導入後30日間で、LINEの友だち登録者は273人増加しました。
現在は、ぞうさん薬局を運営する日本機材販売株式会社の社員となり、アシスタントマネージャーとして5店舗の業務改善を支えています。
始まりは、現場に入った一人のフリーランス薬剤師でした。
「フリーランスを経験していなければ、今の自分は絶対にない」
一人のフリーランス薬剤師が、なぜここまで薬局の改革に関わるようになったのか。その仕事の仕方と、フリーランスという経験が島田さんにもたらしたものを聞きました。
1)極限の現場で身についた、「なんとかする」力
目の前の状況を嘆くより、「どうすれば回るか」を考え続けてきた
Q.薬剤師としての、これまでのキャリアを教えてください。
島田さん:薬剤師は8年目になります。2019年に大学を卒業し、最初は大手ドラッグストアに入社しました。8店舗ほど経験し、ワンオペや一人薬剤師も一通り経験しました。
その後、がんセンターの門前薬局へ転職しましたが、かなり厳しい環境でした。人間関係などから薬剤師が次々と辞め、気づけば私が1日に70枚ほど投薬を担当することもありました。
Q.1日に70枚もの投薬を担当するとなると、相当な負荷だったと思います。その中で、どのように仕事を回していたのでしょうか?
島田さん:とにかく、「この状況をどうやって回すか」を考えていました。投薬台でどう手を動かすのか、どのタイミングで薬歴を立ち上げるのか、次の患者さんをどう案内するのか。仕事の順番や動線も含めて、少しでも無駄を減らせるように考えていました。
そういうことは、全部その環境で叩き込まれましたね。メンタルが強くなったというより、「今ある状況の中で、どうすればなんとかできるか」を考える癖がついたんだと思います。
Q.そうした課題を見つけて解決することは、昔から得意だったのでしょうか?
島田さん:いや、むしろ真逆なんですよ。中学生の頃は、通信簿がほとんど「2」でした。高校も偏差値45くらいで、大学には補欠で合格しました。
大学に入ってからも、最初から要領よく問題を解けたわけではありません。一つの問題を2時間、3時間と考えて、ようやく解けるようなこともありました。ただ、その経験があったからこそ、「答えが分からないときに、どうやって答えまでたどり着くか」を考えるようになったんだと思います。
「似たケースはないか」「ここまでは同じ考え方でいけないか」「ここから別の方法を試せないか」。
問題を一つずつ分解して、似た事例を探して、方法を変えながら試してみる。その癖が、今の自分の入り口だったと思います。

分からない問題を何時間も考えた学生時代と、人手が足りない中で現場を回し続けた薬剤師時代。一見、まったく違う経験に見えますが、共通しているのは、目の前の状況をそのまま受け入れず、「何が問題なのか」「別の方法はないのか」と分解して考える姿勢でした。
後にAIやLINEを使って薬局の仕組みそのものを変えていく島田さんの「なんとかする力」は、こうした経験の積み重ねから生まれていました。
2)フリーランスになり、自分の価値に気づいた
会社員を離れて初めて、「自分は何を提供できるのか」を考えた
Q.フリーランスになったのは、どんな流れだったんですか?
島田さん:がんセンター門前の忙しい環境で働き続ける中で、メンタル的にも厳しくなり、正社員を辞めました。少し休もうと思っていた時期に、以前働いていた薬局の社長とSNSでやり取りする機会があり、個人事業主として仕事を始めました。
開局して間もない薬局では、地域支援体制加算の取得に向けた要件整理や運用設計を進めました。AIを使った簡単なシステムや、LINEとの連携も試すようになりました。
フリーランスになって初めて、「自分は薬局に、こういう価値を提供できるのではないか」と考え、実行できるようになったんです。
Q.フリーランスの、良いところと悪いところは何ですか?
島田さん:良いところは、正社員ともパートとも違う枠組みで薬局に入れることです。
外部の人間なので、結果にはシビアでなければいけません。一方で、ある程度任せてもらえるため、自分で考えて動ける余地があります。それが自分には合っていました。
収入が安定し、将来の生活設計を立てられるようになったことも大きかったです。
でも、それ以上に大きかったのは、自分が薬局に何を提供できるのかを知り、それを複数の現場で試せたことでした。
大変なのは、税金や確定申告などの手続きを全部自分でやることですかね(笑)。その点では、会社のありがたさも実感しました。

3)白衣一枚で入り、最初は「変えない」
最初は支える。課題が見えたら、自分が最初に動く。
Q.新しい薬局に入るとき、何を意識していますか?
島田さん:裸一貫で勝負する、というのは大事にしています。これまでの経験は一旦置いて、白衣だけ持って『現場はどこですか?』と入っていくイメージです。そこで意識するのが、フォロワーシップとリーダーシップの切り替えです。
初日から「前の薬局ではこうでした」「このやり方は変えた方がいい」とは言いません。最初はフォロワーシップ100です。サッカーで言えば、まずはディフェンス。店舗のやり方に合わせ、目の前の業務を支えます。
そのうえで、経営者や決裁権を持つ人と話しながら、加算や業務の課題が見えてきたら、少しずつリーダーシップへ切り替えます。
ただ、今までの現場を無理に変えないことは大切にしています。「これをやってください」ではなく、「実は、こうすればできるかもしれません」と提案する。周りを前に押し出しながら、自分が最初に踊り出す。そのスイッチを、どこで切り替えるかですね。
外部から来た人に現場を否定されたり、既存スタッフとの間に摩擦を起こされたりすることを不安に思う経営者もいると思ってまして。いきなり改革案を出すことではなく、まずは現場の一員として信頼を得ることが大事と思っています。
Q.LINEを使った初回問診は、島田さんの提案だったそうですね。
島田さん:岡村さん(ぞうさん薬局 取締役)が投薬までの時間を短くする業務改善を進める中で、私は「新患アンケートの記入待ち」がネックだと感じました。紙とペンで書いてもらう代わりに、スマートフォンで回答できれば、患者さんの待ち時間と、薬局側の転記作業を減らせます。同時にLINEの友だち登録にもつながるので、一石二鳥だと考えました。
導入後30日間で、LINEの友だち登録者は273人増加しました。
結果を社内の掲示板で共有したところ、スタッフの方が「数字で見えると嬉しいよね」と言ってくれました。新しい仕組みを入れると、現場には一定の負担がかかります。だからこそ、自分たちの取り組みが数字で見えて、働く人のやる気につながるのが一番嬉しいです。
課題を見つけ、提案し、自分で動き、成果が出るところまでやり切る。
仕組みをつくって終わりではなく、患者さんとスタッフの負担が減り、現場で成果を実感できるところまで運用する。
そこまでが島田さんの仕事です。


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4)フリーランスから、社員へ
「大変だろうな。だからこそ、入る価値がある」
Q.フリーランスとして色々な薬局に行けたのに、なぜ日本機材販売株式会社の社員になったのでしょうか?
島田さん:岡村さんが、いろんなことに挑戦しようとしていて、面白そうだなと思ったんです。
正直に言えば、社員になると大変だろうな、とは思っていました。でも、大変だからこそ入る価値がある。大変な環境はこれまでも経験してきましたし、一番頑張っているのは岡村さんですから。
ここで働かせてもらうことは、自分のキャリアにとってもいいなと思いました。
現在、島田さんはアシスタントマネージャーとして、5店舗の業務改善や加算取得に向けた取り組みに関わっています。
フリーランスとして外からぞうさん薬局に入り、実際に現場で働いたからこそ、会社の方向性や働く人たちを知ったうえで、社員になることを選びました。
フリーランスという働き方は、島田さんにとってゴールではなく、次のキャリアにつながる入り口にもなったのです。

5)知識と、現場を回す力を持つ薬剤師へ
自分が前に出るより、周囲が力を発揮できる状態をつくりたい
Q.これから、どのような薬剤師になりたいですか?
島田さん:薬剤師には、二つの軸があると思っています。横軸が、薬や制度に関する知識。縦軸が、現場を実際に回す力です。知識があっても、現場で実行できなければ変化は起こせません。両方を持った薬剤師になりたいと思っています。
当面の目標は、全店舗の加算をさらに充実させること。そして、岡村さんが少しずつ現場を離れ、経営者としての仕事に集中できるよう後押しすることです。
その一方で、島田さんは以前から会社を支えてきたスタッフへの敬意も忘れません。現在育休中のスタッフについても、「戻ってきたときに、もっといい現場になっていればいい」と話します。
自分が前に出ることより、周囲が力を発揮できる環境をつくる。
島田さんが目指しているのは、そんな薬剤師なのだと感じました。
Q.フリーランス薬剤師の活用を迷っている薬局経営者には、何を伝えたいですか?
島田さん:フリーランスにはいろんな方がいます。もちろん、薬局側の要望に100%合う人ばかりではないと思います。でも、80%合う人なら、十分に活躍してもらえる可能性がある。
それに、私は外からの知見がすごく大事だと思っています。
経営者は日々の仕事が忙しくて、他の薬局の経営者とゆっくり情報交換する時間を取れないことも多いですよね。
フリーランスは、いろいろな薬局に入り、さまざまな経営者やスタッフと仕事をしています。
だから、「他の薬局では、こんなやり方をしていますよ」、「こういう方法もありますよ」と、自社にはなかった視点を持ち込めることがあります。
いきなり大きなことを任せる必要はありません。迷っているのであれば、まず一度、現場の支援に入ってもらう。それだけでも全然ありだと思います。
フリーランス薬剤師を「不足している一人を埋める人」と考えるのではなく、自社にはない経験や視点を持ち込んでくれる人と捉える。
島田さんの話を聞いていると、そんな活用方法も見えてきます。
Q.最後に、これからフリーランスを目指している薬剤師へ、一言お願いします。
島田さん:少しでも「やってみたい」と思っているなら、飛び込むのはすごくいいと思います。
スパイダーマンの映画に、「待つんじゃない、飛ぶんだ」という趣旨の場面があるんですが、まさにそれだと思っています。
「自分には、まだスキルがない」、「経験が足りない」そう思う人もいると思います。でも、飛び込んだからこそ得られる経験が絶対にあるんです。
自分の経験がハマる現場は、きっとあります。まず飛び込んでみる。そこで求められていることを見て、自分に何ができるかを考える。
フリーランスになると、会社の名前や肩書ではなく、自分自身が評価されます。看板は、自分だけ。白衣一枚で現場に入り、そこで何ができるのか。裸一貫で勝負する。
それが、フリーランスの面白さだと思います。

6)取材後記
中学時代、通信簿はほとんど「2」。
そこから薬剤師になり、厳しい現場を経験し、フリーランスとして複数の薬局に入り、今では5店舗の業務改善に関わる島田さん。
最初から「できる人」だったわけではありません。
目の前の課題に対して、「どうすれば、なんとかできるか」を考え、試し、そのたびにできることを増やしてきた。その積み重ねが、今につながっているのだと思います。
そして今回、改めて感じたのは、フリーランス薬剤師の価値は、単に人手を補うことだけではないということです。
さまざまな現場を見てきた人が入ることで、「こんなやり方もある」という外の視点が持ち込まれる。それが、薬局を変えるきっかけになることもあります。
「人が足りないから呼ぶ」ではなく、「今の薬局にない経験や視点を借りてみる」。
そんなフリーランスの活用が、もっとあってもいいのではないでしょうか。
「待つんじゃない、飛ぶんだ」。
その言葉は、これから挑戦する薬剤師にも、変わろうとする薬局にも、よく似合う言葉だと思いました。
島田さんが働く「ぞうさん薬局」(日本機材販売株式会社)
神奈川県相模原市を中心に5店舗を展開。AI薬歴や音声入力、LINEを活用した患者対応など、業務改革を進めています。店舗見学・採用のお問い合わせを受け付けています。
■ぞうさん薬局公式サイト
ぞうさん薬局がフリーランス薬剤師を活用するようになった背景については、以下の記事で詳しく紹介しています。
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