「迷ったら、動く。」選ばれるフリーランス薬剤師の仕事論

薬剤師:木村応 様

INTERVIEW


島根から東京へ。フリーランス1年で見えた、選ばれる薬剤師の仕事の仕方

フリーランス薬剤師と聞いて、どんな人を思い浮かべるでしょうか。どんな薬局でもすぐに働ける、経験豊富な薬剤師。自分のやり方を持ち、自由に働く人。あるいは、人手が足りないときに来てくれる「助っ人」。

木村応(きむら・あたる)さんは、そのどれとも少し違います。

島根の薬局で4年間働いた後、東京へ。上京してわずか数日後には、フリーランス薬剤師として最初の現場に立ちました。

その後、約1年間で複数の薬局を経験。調剤だけではなく、受付やレセコン入力、事務スタッフのフォローなど、現場で求められた仕事に向き合いながら、できることを増やしてきました。

木村さんが新しい薬局に入るとき、まず意識するのは「自分を出さない」ことです。その店舗のルールを理解し、まずは求められている役割に合わせる。

一方で、信頼関係ができた後に、「これ、やってみる?」と声をかけられると、経験がなくても、ほとんど断りません。

自分を出しすぎない。でも、機会からは逃げない。

一見すると矛盾しているように見えるこの二つに、木村さんがさまざまな現場で信頼を得てきた理由があるように思います。

そして、木村さんにとってフリーランスはゴールではありません。いろいろな薬局を見て、いろいろな人と働き、自分にできることを増やしながら、これからのキャリアを考えるための「実践の場」です。

フリーランスになって約1年。何を経験し、何が見えるようになったのか。木村さんに聞きました。

1)「待っていても何も始まらない」——島根で身についた、まず動く姿勢

原点は、小学5年生の喘息発作

Q.薬剤師を目指したきっかけを教えてください。

木村さん:小学5年生のときです。重い喘息発作でICUに入るくらいの状態になって、その後、内服薬や吸入薬など、いろいろな薬を使うようになりました。

子どもながらに不思議だったんですよ。「なんで、この薬を使うと呼吸が楽になるんだろう」って。見た目は普通の粉薬だったり、錠剤だったり、吸入する薬だったりするのに、それで身体が変わる。そこから薬に興味を持つようになりました。

Q.大学時代は、どんな学生だったんですか?

木村さん:勉強一筋という感じではなかったですね(笑)。バイトと遊びが中心で、勉強は留年しないように、というくらいでした。

アルバイトでは、もつ鍋店で働いていました。飲食店って、注文が一気に入るじゃないですか。そのときに、「何から手をつければ一番早く回るか」を考えながら動くんです。

振り返ると、その経験は今の仕事にも活きていると思います。薬局でも、処方箋が一気に重なったときに、何から手をつけるか、どう動けば全体がスムーズに回るかを考えるので。

Q.卒業後は地元の島根でどんな経験をしましたか?

木村さん:無菌調剤や在宅医療、終末期の患者さんへの対応など、いろいろ経験しました。

退院時カンファレンスにも関わっていましたが、待っているだけでは仕事は広がらないと思っていたので、自分から病院へ行って、「薬局として、こういうことができます」と伝えるようにしていました。

待っていても何も始まらないと思っていたんです。

そうしているうちに、少しずつ在宅の依頼もいただけるようになりました。

Q.環境を変えようと思ったのはなぜですか?

木村さん:働きやすい環境ではありました。ただ、最後の2年くらいは、自分の中で停滞している感覚がありました。年齢や在籍年数で評価が決まっていくことにも違和感があって。

「区切りが来たら、すぐに動こう」と決めていました。

島根時代の木村さんは、決して受け身で働いていたわけではありません。

仕事が広がらなければ、自分から病院へ行く。

環境に停滞を感じたら、次に動く準備をする。

後に木村さんが語る、「迷ったら、動く」という姿勢は、フリーランスになってから生まれたものではありません。

薬剤師として働き始めた頃から、すでに一貫していたのだと思います。

2)島根から東京へ

「もっと早く動いてもよかった」

退職を決めた木村さんと、私が初めて話したのは上京前のことでした。そのときには、木村さんの中でほぼ答えは決まっていました。東京へ行く。そして、フリーランスとして働く。

Q.なぜ東京だったんですか?

木村さん:チャンスの母数ですね。東京と大阪が大きいと思うんですけど、当時は東京の方が案件も多い印象がありました。だったら、数が多いところへ行こう。そこだけです。

Q.上京して2~3日後には最初の薬局で働き始めるとはかなり早いですよね。

木村さん:遊びに東京へ来ているわけじゃないんで(笑)。今が一番動ける時期だと思っていました。

そのときに働いて、いろいろ経験しておかないと、自分の人生が大きくプラスに動かないんじゃないかと思っていたので。「働くぞ」という感じでしたね。

Q.東京に出てきて約1年。今、当時の決断を振り返ってどう思いますか?

木村さん:出てきてよかったですね。むしろ、もっと早く出てきてもよかったんじゃないかと思うくらいです。もっと無理してでも、動いてよかったのかなって。

将来、自分で薬局を経営したい。

木村さんにとってフリーランスは、単に自由に働くための選択ではありませんでした。

いろいろな薬局を見る。さまざまな経営者やスタッフと働く。そして、「良い薬局とは何なのか」を現場で学ぶ。そのための選択でもあります。

島根で4年間働き、ようやく東京へ出てきた。それでも今振り返ると、「もっと早く動いてもよかった」と感じている。

木村さんの「迷ったら動く」という価値観は、東京へ出てきて、さらに強くなっています。

3)最初は「自分を出さない」。でも、機会からは逃げない

「週1回しか行かない自分に、店を合わせてもらうのは違う」

東京で最初に入った薬局では、勤務開始直後に事務スタッフの体制が大きく変わりました。そこで木村さんが担当したのは、調剤だけではありません。受付やレセコン入力も任されることになりました。

Q.フリーランスとして入った最初の現場で、いきなり想定外の仕事でしたよね。

木村さん:そうですね。薬剤師の仕事というより、受付やレセコン入力をかなりやっていました。

なので、「フリーランス薬剤師として大丈夫かな」と不安になっている暇は、あまりなかったです(笑)。

Q.嫌ではなかったんですか?

木村さん:もちろん大変ではありましたけど、新しいことを学べるのは嬉しいので。

実際、今でも役立っています。あのときレセコン入力を覚えたので、別の店舗でも事務さんのフォローができるようになりました。

Q.その後、いろいろな店舗に入っています。初めての店舗で気をつけていることはありますか?

木村さん:細かいルールが全然違うので、まずはそこに合わせます。自分を出さないようにしていますね。

自分の仕事のこだわりを、一回なくすようなイメージです。

Q.複数の薬局を知っていると、「こちらのやり方の方がいい」と言いたくなりませんか?

木村さん:そこは、求められている立場によります。改善まで求められているなら、自分の知識や経験を使って提案します。

でも、ある程度完成している店舗に、普通に戦力として呼ばれているのであれば、こちらから何でも言えばいいわけではないと思っています。完全に合わせることもあります。

特に週1回くらいしか行かない店舗で、自分のやり方を強く出すのは、ちょっと図々しいと思うんですよ。逆の立場でも、僕はそう思うので。

Q.一方で、経営者からはいろいろな仕事を任されていますよね。なぜだと思いますか?

木村さん:一つ決めていることがあります。「これ、やってみる?」と言われたことを、僕はほとんど断っていないんです。まず「やります」と言います。

経験したことがない仕事でも全てやる方向で受けるので、「できる」と思って受けているわけじゃなく、不安しかないこともあります(笑)。

でも、「これをやったら、自分の成長になるな」と思うので。

だったら、やってみようと。

最初の現場で任された受付やレセコン入力は、当時は想定していなかった仕事でした。それが今では、別の店舗で事務スタッフをフォローできる力になっています。

そして、新しい薬局に入ったときには、まずその店舗に合わせる。

外から複数の薬局を見ているからこそ、気づけることはあります。ただ、木村さんの言葉を借りれば、「見えること」と「変えていいこと」は別です。

人手として現場を支えることを求められているのか。改善まで期待されているのか。その役割を見極めて、自分の出し方を変える。

一方で、信頼関係ができ、機会をもらったときには逃げない。

「最初は自分を出さない。でも、任されたらやってみる。」

一見すると正反対に見えるこの二つが、木村さんの仕事の仕方です。

フリーランスの場合、会社名や役職以上に、一つひとつの現場で積み上げた仕事が、次の信用につながります。

「やったことがないから、やらない」のか。

「やったことはない。でも、やってみる」のか。

その小さな選択の積み重ねが、できる仕事を増やし、次の機会につながっていくのだと思います。 

4)複数の薬局を見たから分かった、「強い薬局」の共通点

「事務さんがしっかりしている薬局は強いです」

Q.フリーランスになって、正社員との違いを感じることはありますか?

木村さん:あります。有休ってすごいな、と思いますよ(笑)。

フリーランスは、休もうと思えば自分で休みをつくれます。でも、働きたくても仕事がないこともある。休みも不安定ですし、収入も不安定です。

実際、門前のクリニックの休診や祝日が重なって、勤務日数がかなり減ったこともありました。忙しいことより、働きたくても働けない方が不安でしたね。

Q.一方で、いろいろな薬局で働いたからこそ見えるようになったこともありますか?

木村さん:ありますね。同じ薬局でも、店舗によって全然違いますし、いろいろなところを見ることで、「ここは働きやすいな」とか「ここはうまく回っているな」と感じることもあります。

その中で、僕がすごく感じるのは、事務さんがしっかりしている薬局は強いということです。

Q.薬剤師ではなく、事務スタッフですか?

木村さん:そうです。受付も、レセコンも、患者さんとのやり取りもありますし、事務さんがしっかりしていると薬局全体が回りやすいです。

逆に、薬剤師側が事務さんを下に見るような関係になってしまうと、当然モチベーションも下がります。

だから、事務さんを大切にすることは、すごく重要だと思います。

木村さん自身、東京で最初に経験した仕事の一つが、受付やレセコン入力でした。

薬剤師として調剤だけをしていたら、ここまで強く感じなかったことかもしれません。

フリーランスには、収入や勤務が安定しないという側面があります。一方で、複数の現場に入るからこそ、それまで「当たり前」だと思っていたことを比較できるようになります。

なぜ、この薬局は働きやすいのか。

同じように忙しいのに、なぜこの店舗はスムーズに回るのか。

その違いを実際の現場で見ることで、木村さんの視点も、「自分が薬剤師としてどう働くか」から、「薬局全体がどう回っているか」へと広がっていきました。

これも、複数の現場を経験するフリーランスだからこそ得られるものの一つだと思います。

5)フリーランスはゴールではない

「迷ったら、動く」

将来、自分で薬局を経営したい。

その思いは、木村さんの中で変わっていません。

ただ、いろいろな薬局を経験する中で、「どんな薬局をつくりたいのか」という考えは少しずつ変わってきました。

Q.以前は、「この薬剤師だから、この薬局へ行きたい」と思ってもらえる薬局をつくりたいと話していました。今も、その考えは変わらないですか?

木村さん:そこは、だんだん考えが変わってきていますね。最初は、自分のファンをつくる薬局がいいと思っていました。

でも最近は、自分が現場にいなくても、患者さんから選ばれる薬局にするにはどうしたらいいんだろうと考えるようになりました。

自分自身にファンがつくのか。薬局そのものにファンがつく仕組みをつくるのか。

まだ答えは出ていません。いろいろ勉強しながら、探り探りでいこうと思っています。

Q.最後に、フリーランスに興味はあるけれど、一歩踏み出せない薬剤師にメッセージをお願いします。

木村さん:迷ったら、動けじゃないですか。僕らしくないですか、それ(笑)。

やらない後悔より、やって後悔。

そんな感じです。

僕自身、東京に出てきて、「もっと早く動いてもよかった」と思っていますから。

複数の薬局を経験したことで、木村さん自身の「良い薬局」の定義も変わり始めています。

一人の薬剤師に患者さんがつく薬局がいいのか。誰が働いても、一定の価値を提供できる仕組みをつくるのか。まだ答えは出ていません。でも、それでいいのだと思います。

フリーランスとしてさまざまな現場を見ることは、単に調剤経験を増やすだけではありません。自分は何をできるようになりたいのか。どんな働き方をしたいのか。将来、どんな薬局をつくりたいのか。実際の現場を見ながら、それまでの考えを何度も更新していく。

木村さんにとって、フリーランスはゴールではなく、次のキャリアを考えるための実践の場になっています。そして、その根底にある考え方は、島根で働いていた頃から変わっていません。

「待っていても何も始まらない」と、自分から病院へ足を運んだ島根時代。

「もっと早く東京へ出てもよかった」と振り返る現在。

そして最後に出てきた、「迷ったら、動く」という言葉。

場所や立場は変わっても、木村さんの行動の基準は一貫しています。

6)取材後記

「できるようになってから動く」ではなく、「動くから、できることが増えていく」

木村さんとは、東京に出てくる前から話をしています。当時から「いつか自分でやりたい」という思いは持っていました。

ただ、もちろん最初から何でもできたわけではありません。

東京に出てきて、最初に経験したのは受付やレセコン入力。初めて入る薬局では、まずその店舗のやり方に合わせる。経験したことのない仕事を任されれば、周りの力も借りながら覚えていく。

そうして約1年が経ち、できることも、見える景色も明らかに増えました。

今回話を聞いていて印象に残ったのは、木村さんが自分を必要以上に大きく見せないことです。

分からないことは分からないと言う。どんな薬局をつくりたいのかも、「まだ考えている途中」と話す。それでも、機会が来ればまず動いてみる。

私は、そこに木村さんの強さがあると思っています。できるようになってから挑戦するのではなく、挑戦するから、できることが増えていく。

フリーランスというと、どんな現場でも一人で完璧に対応できる「完成した薬剤師」をイメージする人もいるかもしれません。

でも、必ずしもそうである必要はないと思います。新しい環境に入り、自分の現在地を知る。そこで必要とされることを学び、できることを増やす。

その経験を、次のキャリアにつなげていく。

そんな「キャリアを広げるための実践の場」として、フリーランスという働き方を選ぶ方法もあります。

一方、薬局側にとっても、フリーランスは単に欠員を埋めるためだけの存在ではありません。

大切なのは、「フリーランスか社員か」ではなく、「どんな人に、どんな役割をお願いするのか」。その人がどんな姿勢で現場に入り、これまで何を積み上げてきたのかを見ることだと思います。

取材の最後に、「ほかに言い残したことはありますか」と聞くと、木村さんは少し考えて、こう答えました。

「迷ったら動く、というのは僕のポリシーですね。あとは……僕は、働きまくりますよ(笑)」

そして、こう続けます。

「でも、それを周りに押しつけるつもりはないです。自分が一番働いているつもりで動く。それが大事かなと思っています」

この先、木村さんがどんな経験を重ね、どんな薬剤師になっていくのか。そしていつか、経営する側に立ったとき、今の経験をどう振り返るのか。

そのときに、もう一度話を聞いてみたいと思っています。

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